ふみちゃん さっちゃん

 私の子供の頃の友人達は未だに東京の下町に住んでいる。70歳近くになり、子供の頃育った地域に住んでいる人も珍しくなっているが、私の友人達は生まれた古い家で今なお暮らして奴もいる。浅草、上野、御徒町は独特の人情の街である。人なっこくて、お人好しで、お節介で、短気で、ちょいと粋で、田舎臭くて、私の友人は皆漫画から出てきたような下町子の親父達である。年に何回か入谷の友人の小料理屋で集まるが、直ぐ話が子供の頃に帰ってしまい、それぞれが勝手にしゃべりうるさくてしょうがない。
 そんな時、会に連れてきた古女房達を、亭主達が「ふみちゃん」「さっちゃん」と呼び我々も何の抵抗もない、今時の人が聞いたらおかしな呼び方かもしれないが、我々は自然に何とかちゃんと呼び合っている。
 そう言えば私の母親もりっちゃんと呼ばれていたし、親父も正ちゃんと呼ばれていた。あの頃は何処の町にも少女のような無邪気なおばあさんが居たものだ。年甲斐もなくキャッキャッ、と笑い、少女のようにはにかみ、何にでも感激して泣く、こんな優しいおばあさんが何処にもいたものだ。
 しかし、こんな可愛いお婆さんを最近は見かけなくなった。年金がおかしいとか、物の値段が高いとか、文句ばかり言う婆さんばかりテレビに出てくる。これも時代のせいなのだろうが、テレビ局の皆さん、優しい可愛らしいおばあさんを捜してテレビに出してくださいよ、気持ちが和みますよ。

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