吉田沙保里の敗戦

 私は吉田敗戦の知らせを聞いたとき、今負けて良かったと本心思った。無敵吉田も必ずこのような敗戦はあると私は思っていた。オリンピック前で本当によかった。

 この敗戦で吉田の北京での金メダルの可能性が増したと私は思っている。現段階で吉田が55キロ級で世界の選手を大きく引き離していることは誰もが認めるところだ。その吉田に一矢報いるためには、米国選手が挑んだ今回のような戦い方がもっとも効果的だろう。

 両足に入ってきた吉田のタックルを全く防御せず、上から抱えて後方に身を挺して放り投げる、技としては仕掛けた吉田の技が掛かった状態だが、両者マットに落ちた状態は両者飛んでおり、判定の分かれるところだ。日本式のジャッジではほとんど問題なく吉田のポイントであるが、国際審判の判定となると米国選手にポイントがついても不思議はない。このような判定に抗議して、ビデオ判定に持ち込んでも覆る可能性はほとんどない。まして日本は強すぎるので、五分五分の勝負ではまず日本に分はない。

 今回の米国のコーチの八田忠朗氏は日本レスリングを知り尽くした男だ。はじめからこのような試合運びを想定して徹底的に練習してきたのだろう。
 日本の格闘技においては練習も礼節を重んじる伝統があり、先輩に失礼な態度はとらず、練習で自分より強い先輩に対して、受けに回り一発技の下手物技などかけてはいけない、といった雰囲気がある。従って、チャンピオン達は今回のような一発技をかけられた経験がほとんどない。イメージの中ではそれなりの対応をしていると思うが、本番のマットの上で力の強い、外国選手に一発技を食ったら飛んでしまう可能性がある。

 吉田はオリンピック前に負けて良かったのだ。栄監督にオリンピックまで毎日毎日一発技をかけた貰ったら、吉田も伊調もオリンピックでは心配はないだろう。

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