日本技術の流出

 長い経済の低迷に苦しむ我が国の中小企業は、出来る限りのコスト軽減を断行し、ついには会社の命である技術までも合理化の対象としてしまった会社もある。長い経験から誰にも真似の出来ない技術を持つ技術者も次々にリストラの対象となった。現状ではそれほど卓越した技術が無くとも海外から輸入した部品でも十分間に合うので、給料の高い職長は要らない、ということになってしまうのである。事実、今までは熟練した人手で作り上げていた加工部品もコンピューター制御の工作機で作れば簡単に出来てしまうのである。従って日本独自の技術を持つ国の宝とも言える技術者が解雇されてゆくのであるが、そこに目を付けているのが中国である。
 日本が持つ高い技術の修得を目指し中国は国を挙げてこれらの技術者をスカウトしている。例えば眼鏡の枠やレンズの技術者には月給200万円などという人もおり、大使館員がその勧誘に携わっていると聞く。雇用期限は中国の技術者が全てを修得するまでだという。日本技術者にしても高齢者が大半であり、限られた期間の雇用でも十分満足しているそうである。中国のしたたかな先を展望した経済戦略に驚くと共に、脅威を抱く次第である。
 しかし、残念ながらこの流れを止めるわけには行かず、誰が悪いというわけでもない。企業は生き残らなければならないのだし、現状で会社を維持してゆく為には会社の体質を変えてゆくのは当然である。大切なものを失いながらも、誰も手がけていない新たな分野の開発に邁進するのが我が国の宿命なのだろう。

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