新しいタイプのレスラーを育てたい

 レスリングの練習を六十三歳になって再開した。そのきっかけは女子柔道の学生チャンピオン二宮美紀が我が社に入ってきて、レスリングをするというからである。
 私はかねてより、他競技からのレスリング転向者に対するマニュアルが必要だと思っていた。特に柔道からの転向者にレスリングの基本技ばかりを教えて失敗した例は沢山ある。私は柔道の特性である、投げ技、足技、を生かしたレスリングマニュアルを作り出したいと思っていた。私の柔道選手に対する指導方法は、レスリングの基本技であるタックルに対する防御を徹底的に訓練する事から始めた。態勢もあまり低くせず立ち腰のままでも、安定したレスリングが出来る新しいタイプのレスリングを完成したいと思っている。コーチ役の木名瀬君と相談して新しいタイプのレスラー作りに取りかかった。この練習方法は女子だけのものでなく、転向選手だけのものでなく、将来の日本レスリングの方向付けになると私は思っている。
 今の日本レスリングはルールに対応する勝つレスリングの研究に欠けていると私は思っている。タックルは安定したレスリングの基本技ではあるが、成功しても1ポイントであるし、失敗して相手にバックに回られれば失点する。それに引き替え投げ技は成功すれば3点、失敗してバックに回られてもノーポイントである。どう考えても、いくら難しくても、投げ技を中心にレスリングを組み立てない手は無いのだ。
 かつて、外国選手が日本選手を怖がった理由は、タックルが上手い上に足払いや投げ技だの、何をするか分からないからである。「今の日本選手は何故投げをしないのか、タックルだけしかしてこないので、低く構えていれば怖くない」と元チェココーチのミッキー氏は言っている。私と木名瀬コーチが育てる、女子67キロの二宮美紀選手の成長を期待していただきたい。
 60歳過ぎてのレスリングの練習はとても辛いが、練習を終わってからの疲れが、このうえなく爽快である。
 
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