指導者の情熱について考える

 先日本当に久しぶりに青森光星高校の河原木先生から電話があった。今はレスリングから離れ青森の郷土文化を海外に紹介する仕事をしているそうだ。かつて高校レスリング界にあって、光星時代を築き上げ、赤石、金浜、を始め幾多の名選手を育て上げたことは誰もが知るところである。始めは、今はレスリングのことは忘れましたと言っていたが、彼の昔を良く知る私と話が弾むと、次第に能弁になり懐かしさも有ってか、最後はとどまることを知らない弁舌で、レスリングについてしゃべりまくった。レスリングに対する情熱はいささかも衰えることはなく、もう選手を育てる事はないと思うが、私がやってきたことを誰かに引き継ぎたいと言っていた。近年の日本レスリングの人材を育て上げたのは、高校の先生達である。河原木、鍛冶佐、小橋、本橋、井上、大沢、等の熱血先生によって、ジュニアー選手が育てられ大学に送り込まれてきた。これらの選手がここ二十年間の日本レスリング界を背負ってきたのである。しかしその実力は次第に世界レベルに少しずつ後れをとりだし、現在に至っている。何が原因か、色々原因はあろうが、間違いないことは熱血先生達が歳を取ってきたと言うことだ。
 現在日本国そのものが全ての分野で大きな転換期を迎えているように、レスリング協会も時代の間に有るのだろう。しかし嬉しいことに次の次代を担う先生達が出現してきた。沼津学園の井村陽三先生、網野の三村和人先生、立命館宇治の鈴木秀知先生、鹿屋中央の野口次夫先生、等は必ず世界的な選手と成る人材を育ててくれることだろう。この情熱有るジュニアー指導者とのナショナルコーチとの連携を協会がどのように作り上げるかが今後の一環強化システム確立の課題だろう。人を育てると言うことはひとえに情熱である。アジア大会での韓国コーチ陣の選手に対しての叱咤激励、勝ってからの喜びようは、どれを取っても情熱において日本コーチ陣を上回っていたように思えた。必ずコーチの情熱は選手に乗り移るのだ。克って八田会長は毎日毎日、選手に必ず勝てるぞ、世界一練習をしろ。そうすれば負けるはずがないではないか、と選手に直接接して激励していた。
 釜山のアジア大会の五十五キロ準決勝で田南部の高校の恩師である、岩見沢農業高校の井上先生が観覧席で熊のごとく行った来たりしながら、大声で応援し、大熱戦のあげく田南部が勝ちを得ると、太った身体で何度も飛び上がって、喜び、眼鏡を外して涙を拭っていた姿が印象的だった。コーチの情熱は必ず選手に伝わる。強化委員会は熱血先生の指導方針をもう一度検証してみる必要があるのではないだろうか。
 
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