日本レスリング協会における、ロボット開発の必要性

これは、必ずしも少年レスリングにとどまらない内容ですが、選手強化という点から、非常に重要だと思いますので、ぜひお読み下さい。
 レスリングに限らず格闘競技においてはスパーリング練習で強い選手から受ける圧力はその実力差を遙かに超えるものであると思われます。この先輩は強いから俺の技はかかるわけがない、いつもこてんぱんにやられているから、追い越すことは出来ない、といったようにです。過去の名選手達はそんな圧力をはねのけ、先輩達を乗り越えチャンピオンに成っていきました。それが格闘技の訓練であり、日本のもっとも伝統的な格闘技の道とも通じる修行でもありました。しかし時代は変わり、肉体的訓練は出来ても、精神的な人間の圧力に耐えられない若者達が大半となりました。人間のもっとも怖いもの、苦手なものは、人間です。これは故八田会長が言った言葉ですが、まさにこの事がレスリング選手強化の最大のテーマと成ってきました。日本レスリング協会の最も重要な組織である、高体連の近年の衰退は目を覆うばかりです。これはレスリングに限らず全ての高校スポーツ部の現象です。激しいスポーツの衰退はやむを得ないかもしれません。しかし各学校のレスリング部が減っている事より、問題なのは存続しているレスリング部の練習内容です。そこで、まさに現代っ子の最も得意とする、バーチャルリアリティーを取り入れた、練習方法である、ロボット練習方を普及委員会、科学委員会に提案したいと思います。

 我々が望むロボットは、スピード、強度、コントロールが何段階かに調整できるロボットで、今年は第一回目の開発として、タックル用ロボットの開発を目指しております。現状では日本レスリング協会の選手強化は、必然的に少数精鋭と成らざるを得ませんし、全体的レベルの低下は否めません。しかし将来に向けて、我々は新たな思考と方法で、レスリングを普及し、新たな人材を育てなくてはなりません。これが若返った専門委員長の責務と考えます。また、かつてのソ連(ロシア)ではこの開発が進んでおり、現在もの体力強化を中心にしたロボットが旧共産圏中心に沢山有ると思いますが、各国秘密にする部分もありその実体はつかみにくいです。日本のロボット開発が遅れた理由一番の原因は、ロボットが選手育成に必要であると言う発想がなかったこと、又格闘技は精神的面の修行とする考えも強く、大学中心で発展してきた日本レスリングにはなじまなかった、ということがあると思います。

 レスリングロボットの一番の利点は、技のイメージが作りやすいということです。いくら正確に技を覚えたといっても、強い人相手では、実際に掛かる気はしないものです。そうするとかかる技もかからなくなってしまいます。それを、ロボットという無機的なものに置き換えることにより、その余計なイメージをなくして、自分が技をかけるイメージだけで練習が出来ます。そうすると、かからないかもしれない、という負のイメージを完全に拭い去ることが出来るわけです。もう一つの利点は、自分のペースで練習が出来るということです。打ち込みというのは当然相手が必要であり、交互にしますから、自分のペースでするわけにはなかなかいきません。ましてや相手が先輩だったりしたら、納得いくまで自分の技を試す、ということもままなりません。しかしながら、技をものにする過程は、反復練習だけではなく、技のイメージを作り、そのイメージと実際の自分の技とのギャップを埋めていく、つまり何が違うのを考え、また試し、しっくりこなかったらまた考え、また試す、そういう繰り返しになりますから、いくら気のよい相手でも、なかなか何日もつきあってくれないでしょう。そういう技術練習にもロボットは最適なわけです。

 現在、アメリカの高校でよく使用されている、「アダム」というロボットを購入し、レスリングクラブの選手に試してもらっています。ロボットといっても打ち込み台に近いものですが、壁に固定され、こちらの動きに巧く合うように工夫されています。実際に打ち込みをすると、非常に自分のイメージでしやすい。そのイメージでスパーリングをすると、技に思いっ切りが出てくる気がします。まだまだ実験段階であって、はっきりしたことは言えませんが、ロボットが一般化されるようになれば、練習内容も効率の面でもかなり変化があるように思います。もちろんこれを開発、普及するには予算的な問題、技術的な問題など、色々な問題点もあるとは思いますが、レスリングの発展のためにも、何としても努力を重ねてまいりたいと思います。皆様のご協力、ご助言をぜひとも御願いしたいと思います。何卒宜しくお願いいたします。
(平成12年8月14日、全国少年レスリング連盟ホームページ掲載)


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